Lesson4-2 消化と代謝のエネルギー「アグニ」

健康から病気になるまで

Lesson1でも触れましたが、アーユルヴェーダでは病気になる前の状態を「未病」と位置づけ、病気の症状が顕在化するまでに早く対処することを治療としています。

アーユルヴェーダにおいて、健康な状態と病気になっている状態の間は、はっきりと線引きされていません。
病気になるまでの段階には7段階の細分化された状態があると考えられています。

  1. 健康
  2. 蓄積
  3. 増悪
  4. 播種
  5. 局在化
  6. 発症
  7. 慢性化

西洋医学を基とする現代の医療では、「6.発症」以降が病気の状態であるとはっきり位置付けられています。しかし、アーユルヴェーダでは、その前の段階から病気の進行は進んでいると考えます。

エネルギーのアンバランスな状態が続くことで、じわじわと病気になると考えられており、発症していなくても、病気予備軍の状態である人は大勢いると考えるのです。

2.蓄積

日々のストレスや食生活の乱れにより、体内エネルギーのアンバランスを引き起こし、それが体内のある特定の部分に蓄積している状態です。不眠や軽度の便秘もこの状態に当てはまります。

3.増悪

蓄積の状態がさらに悪化した状態です。じわじわと体の調子が悪くなり、病気の兆候が現れ始める時期でしょう。ガス溜まりによる腹痛や重度の便秘はこの状態に当てはまります。

4.播種

増大したドーシャが身体中を動き回る状態です。体のあちこちで不調が起こりますが、自覚症状が現れにくい時期でもあります。肌の乾燥などが症状の一つとしてあげられます。

5.局在化

増大したドーシャが、体の特定の部分にとどまり、深刻化した状態です。体の不調がわかりやすく生じます。関節痛などはこの状態に当てはまります。

アーユルヴェーダでは、「未病」の段階にも、これらの細分化された状態があるとされています。

発症してから治療を始める西洋医学とは異なり、「蓄積」の段階から小さな病気の兆候を見つけ、対策を行うことで健康の維持・増進を目指すのが、アーユルヴェーダ医学なのです。

アグニの働き

アグニは「消化の火」という意味で、体内のあらゆる消化・代謝機能をつかさどっていると考えられています。
アグニが正常に働いているときには、体内のあらゆる機能がうまく作用します。
アーユルヴェーダ医学で病気を考えるときに重要なポイントのひとつがこの「アグニ」なのです。

アグニは体内に13種類存在すると考えられています。
その中には、胃で作用する「ジャータラ・アグニ」、肝臓で働く「ブータ・アグニ」などがあります。

アグニは消化機能だけではなく、肝臓・膵臓・胆のう・唾液腺など、食物を燃焼・変換・排出するための器官や部位にも影響しています。
これらを踏まえると、「酵素」とも捉えられますが、酵素そのものというよりは、酵素の作用を促すエネルギーがアグニだと考えるとわかりやすいでしょう。

アグニのバランスはドーシャのアンバランスにより崩れます。
それぞれのドーシャがアンバランスになり、アグニに影響すると、以下のような体調の変化が現れます。

  • カパの過剰→消化作用低下・怠惰な感情
  • ヴァータの過剰→鼓腸や痙攣・便秘・下痢
  • ピッタの過剰→湿疹・口内炎・胸焼け

アグニの不調が原因で消化不良を引き起こすと、病気の原因とされる毒素「アーマ」が生じてしまうのです。
アーマは舌を覆う白苔として見られることもありますが、血管を塞いでしまったり、重大な病気の原因にも成り得ます。

精神面におけるアグニの作用

アグニは、食物の消化だけではなく、人の心にも作用すると考えられています。

トラウマや思い出したくない過去の記憶、思い出を消化してくれるのも、アグニの役割なのです。

アグニがうまく作用していると、綿密な計画を立てたり、難解な問題を解決できるようになります。
日々のストレスや、抱えきれない気持ちが大きくなるとアグニがバランスを崩し、心のアーマ(毒素)が生じてしまいます。
アーマが蓄積してしまうと、PTSDなど精神障害の原因になるともされています。